マカダミアをアートに。マーク・ハリソンのストーリー
マーク・ハリソンは、難しいと言われていたマカダミアの木や殻から美しい作品を作り出すクリエイター。彼の代表作である「ハスクボウル」は素材として使われているマカダミアと同じく今やオーストラリアのアイコニックな存在となっていますが、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかったようです。ひたむきに手を動かし、素材と向き合うクリエイター、マークのストーリーをご紹介しましょう。
ニュージーランド出身のマーク・ハリソン。刺激的な環境を求め14歳でオーストラリアへと渡ります。昼間はアシスタントとして働きながら夜間学校を修了、その後クイーンズランド・カレッジ・オブ・アートへと進学し家具デザイン、照明デザイン、インテリア全般のスキルを着実に習得していきます。
「在学中にブリスベン市内でとある改修工事に携わる機会がありましてね」と当時を振り返るマーク。「その現場にマカダミアの木があったのです。初め殻を石で割ってみようとしたのですがびくともしない。ハンマーで叩いてみたり、最後はリングスパナまで持ち出したり。マカダミアの殻の固さを目の当たりにしました。さらに食べてみたら素晴らしい味がした。マカダミアの豊かな魅力を自分なりに掴むことができた、と感じたのはこの時です」と話す。
この現場での体験により、オーストラリアの人々の中に脈々と受け継がれる「マカダミア」の真の意味を深く感じ取ったマーク。その後参加したオーストラリアの家具メーカー会社のアーティスト・イン・レジデンスプログラムをきっかけにマカダミアの殻に着目、素材としての可能性に目を向けるようになりました。
「人とはちょっぴり違う視点を持ち、自分でアイディアをひねり出すことが好きでね」とマーク。「そもそもこのプログラムに参加した大きな理由はアートと製造業を組み合わせ、どうにか廃棄物の問題を打破できないか、と探るため。思いついたのはここオーストラリアならではのユニークな資源を使った椅子を作ることでした。土地特有の素材でもの作りをする、この発想は現在のハスクボウルの原点といえるかもしれません」
ハスクボウル
スペインのとある企業がアーモンドの殻を使って棺を製造していることを以前より耳にしていたマーク。仕入先からマカデミアの殻の粉末を入手した彼は早速工房で実験を開始します。
クリエイターならではの柔軟なアプローチの末、その殻の粉末と樹脂を混ぜ合わせたものを型に押し込み、美しく丸みを帯びたボウルを作りあげます。これこそが今やオーストラリアの代表的なデザインとして広く知られる、マカダミアの形をした「ハスクボウル」。
「マカダミアの殻は熱伝導性に優れているので肌合いがすごく良い。体温に合わせて手の中で穏やかな温もりがじんわりと広がるのでずっと触れていたいような、特別な風合いがあるのです」とマーク。
このハスクボウルは現在も彼の工房で制作されており、ウェブサイト「Husque」や地元のギャラリーを通じて販売されています。2010年にあのオプラ・ウィンフリーがオーストラリアを訪問した際、QLDの州首相がこのハスクボウルを彼女にプレゼントしたこともあるとか。
「人気がですぎても困っちゃうのだけど」とマークは冗談めいて話します。「私は根っからのクリエイターです。ただただ、自分の作りたいものに熱を注いでいたい。まわりに手伝ってもらうこともありますが、ほとんど自分の手でもの作りをしていますしこのスタンスは変わらない。事業を拡大したいとはこれっぽっちも思っていませんよ」とまっすぐに心の内を語ってくれました。
マーク・ハリソン氏の代表作「ハスクボウル」
マカダミア・ウッド・プロジェクト
さらに扱う素材の幅を広げるマーク。現在進行中のプロジェクトの中で、殻ではなくマカダミアの木から切り出した木材に注目し、制作活動を行っているそう。マカダミアの木目は美しく、どの生産者も自分の農園で天塩にかけて育てたマカダミアの木の断面を見てたいそう感動するのだとか。一方でそれらを資材として利用するとなるとまた別の話、すっかりお手上げ状態になってしまうようです。
「数日から数週間のうちにどんどんひび割れていってしまう、そうなるともう手がつけられません。均一に乾燥していかないのがマカダミアの木の難点の一つ。伐採した木を1-2年寝かせておいてもうまく乾燥が進まずバラバラに割れてしまい、結局薪にするしか使いみちがない、というのが多くの農園での実情ではないでしょうか」とマカダミアの木を扱うことの難しさを教えてくれた。
マカダミアの木はあくまでもナッツ産業の副産物。製材用に栽培されたわけでも、家具に使われるようなまっすぐな木でもない上に短くて太くて不揃い。このような難点をクリアし、マカダミアの木を資源化するための技術を開発する中で、マークのクリエイターとしての柔軟な視点が生かされることとなります。
「いかに木が乾燥して割れ始める前の早い段階で作業を進めるか、が大きなポイントでした。切り落としたばかりの木は割れにくいことを発見し、薄く削って突板にすることを思いつきました。マカダミアの持つ木目の自然美は装飾性に適していて突板にすることは理にかなっていますから。最終的に午前中に切ったマカダミアの木の枝ですぐに作業をスタート、午後には突板で成形したハンドルを仕上げるまでのプロセスを確立しました。私の腕ほどの大きさの枝から20~40個もハンドルを作ることができるのです。薪にしかならなかった木が突然大きな収益を生み出す資材へと生まれ変わったのですから、驚きです」
ナッツ産業とアートの融合
そのデザイン性の高さが何かとピックアップされるマークの製品だが、造り手側の視点を常に念頭に置き、素材の持つ性質と対峙することを怠りません。自宅やスタジオにあるノートにアイデアやインスピレーションをパパっと書き留めることはあるものの、とにかく自分の手を動かしながらアイデアを形にしていくのがマーク流。
「何か新しいものを制作する際、まずは手を動かしてみますね。なんとなくアイディアが形になったところで一旦スケッチして、さらにまた手を動かす。こうして微調整を重ね良いものへと仕上げていく。実践的なやり方のほうが性に合っているのかな。よほど正確に計測する必要がある場合以外はパソコンの前で多くの時間を費やすことはまずありませんよ。私の制作活動はある意味、とてもオーガニックなスタイルだといえるかもしれません」
彼がマカダミアの廃材で革新的な成功を収めることができたのは、いわばこうした地道な過程があったからだと言えるでしょう。マカダミアの殻から木まで、難しいとされてきた素材が見事にエレガントで美しい製品へと息吹き返すことができたのですから。
「マカダミアは普通の木材とは全く違う性質を持っています。今までの常識を当てはめていては前には進めない。目の前の素材をしっかり観察し、どこがどう美しいのかを本質として捉え、木材の持つ問題点にきちんと目を向けること。そのパラメータの中で初めて機能するプロセスや方法を探り、製品を開発していく必要があるのです」と締めくくった。
Original blog
https://www.australian-macadamias.org/consumer/our-nut-hub/blog/macadamia-change-maker-marc-harrison